現代の労働市場において、転職はかつてないほど一般的になっています。かつては終身雇用が主流であった日本でも、若者を中心に複数の職場を経験することが一般的となっています。
このような変化に伴い、従来の退職金制度では新しい時代に対応しきれない部分が出てきています。今回は、転職が普通になった時代に最適な退職金制度について考察します。
1. 従来の退職金制度の問題点
従来の退職金制度は、主に以下のような特徴を持っていました。
- 勤続年数による計算:
退職金は勤続年数に基づいて計算されるため、長期間同じ会社に勤めることを前提としています。 - 一時金の支給:
退職時に一括で支給されることが多く、退職後の生活資金として活用されてきました。 - 企業依存型:
退職金は企業の業績や政策に依存するため、経営状況によっては支給額が減少するリスクもあります。
これらの制度は長期的な雇用を前提としており、転職が一般的になる現代では、労働者にとって不利になることがあります。特に、短期間での転職を繰り返す場合、退職金を十分に受け取れないことが多くなります。
2. 新しい退職金制度の要件
転職が一般化する現代において、最適な退職金制度には以下のような要件が求められます。
- ポータビリティの確保:
労働者が転職する際に、退職金を持ち運べる仕組みが必要です。個人が自分の退職金を積み立てていく「個人型確定拠出年金(iDeCo)」のような制度が理想的です。 - 柔軟性の向上:
勤続年数にかかわらず、一定の基準で退職金を積み立てる仕組みが必要です。これにより、短期間の勤務でも退職金を積み立てることができます。 - 透明性の確保:
労働者が自分の退職金の状況を常に把握できるようにするための透明性が求められます。デジタルプラットフォームを活用した管理システムの導入が考えられます。
3. 現代に適した退職金制度のモデル
(1) 確定拠出年金(Defined Contribution Plan)
確定拠出年金(DCプラン)は、企業が定期的に労働者の退職金口座に一定額を拠出し、労働者がその資金を運用していく制度です。この制度は以下のようなメリットを持ちます。
- 個人の裁量:
労働者は自分の資金をどのように運用するか選択できるため、自分のリスク許容度に応じた投資が可能です。 - ポータビリティ:
転職した場合でも、口座を持ち運び、新しい職場でも続けて積み立てを行うことができます。 - 税制優遇:
一定の税制優遇措置があり、労働者にとっても有利な制度となっています。
(2) 企業年金のポータビリティ強化
企業が提供する年金制度においても、転職時に年金資産を持ち運べる仕組みの強化が必要です。
具体的には以下のような取り組みが考えられます。
- 年金資産の一元管理:
複数の企業での勤務期間を通じて、一つの年金口座で資産を管理できるシステムの構築。 - 転職時の資産移管:
転職時に年金資産を新しい企業の年金制度に移管できる仕組みの整備。
4. 企業の取り組みと労働者の意識改革
新しい退職金制度の導入には、企業側の積極的な取り組みが必要です。
例えば、以下のような施策が考えられます。
- 退職金制度の見直し:
現行制度を再評価し、労働者にとってより有利な制度に改訂する。 - 従業員教育:
新しい退職金制度について従業員に理解を深めてもらうための教育プログラムの実施。
また、労働者側も自身のキャリアプランに合わせて、退職金の運用方法を考える必要があります。長期的な視点で資産形成を行うことが重要です。
まとめ
転職が普通になった時代において、従来の退職金制度はそのままでは労働者のニーズに応えられません。ポータビリティと柔軟性を兼ね備えた新しい退職金制度の導入が求められます。確定拠出年金や企業年金のポータビリティ強化など、具体的な施策を通じて、労働者が安心してキャリアを築ける環境を整えることが重要です。
企業と労働者が協力して、持続可能な退職金制度を構築していくことが、自社の人材の採用・定着率の向上につながり、長期的には未来の労働市場の発展に寄与するでしょう。
2024年7月11日